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東京日日新聞 1920 (大正9).7.22

緩衝国家建設と撤兵で覚書を交換

 


 

緩衝国家覚書  七月十七日、ウェルフネ政権代表者と我が委員との間に交換せる覚書全文、左のごとし。 (二十一日陸軍省発表)

  覚書
日本浦塩派遣軍司令官の命を受けたる第五師団長及び極東共和国政府は、各代表者をゴンゴタ駅に派遣し停戦議定案を提出せり。 しかしてこの機会に於いて両委員のなおその機能の範囲に於いて、双方のため必要なる軍事関連諸問題に関し意見の交換を行い審議の結果、別紙覚書条項を交換す。
  日本軍代表者陸軍少将
          高柳保太郎
  極東共和国代表者
      ウェ・エス・シャートフ
 千九百二十年七月十七日、ゴンゴタ駅に於いて

  覚書条項
日露両委員は極東露領に於ける迅速なる平和の確立を期し、これが達成と安寧及び秩序恢復の最良手段たるや、諸外国より武力干渉外に立ち、統一政府を戴く緩衝国の建設に在る事を信ず。

この緩衝国は国際的及び経済的関係に於いて、文化及び産業の発達せる国家より絶縁して存在するあたわず、極東露領と日本との間には最も密接なる利害関係を有するを以って、緩衝国は日本より最も緊密なる友交と協力とを期待せざるを得ず。 前記根本意志に基づき、両委員は次の確信に於いて一致す。

すなわち緩衝国はその政策として共産主義を採用せず、国民的にして広き民主的性質を有せざるべからず。 これがため極東露領住民の意志を正確にかつ独立して表明する代表者の会議を召集するを、現下の必要とする事これなり。 両委員はその受けたる任務及び企図に関し、以下のごとき諒解の下に相互に次の声明をなす。

第一、日本委員は、日本軍憲の各地方政権に対する交渉関係は、極東露領住民の意志を正確かつ独立して表明する代表者の会議完了時に於いて、初めて断絶せらるべきものなる事を表明する。 しかしてこの会議は、統一政府確立の目的を有せざるべからず。

第二、日本委員は、前記会議開催の方法及びその事業進捗に関し、日本軍憲のこれに干渉せざる事を声明す。 しかれどもこの会議に参集すべき代表者にして妨害を受くる者ある時は、その政権のいかんに拘わらず、これに対しなし得る限りの保護を与うる事を約す。

第三、日本委員は、日本軍の極東露領駐在問題に関し、七月三日附日本政府の宣言を準拠とす。 (註)
後貝加爾地方の撤退に関し、日本軍憲はチェッコ・スロヴァキア軍の撤退完結せし現時に於いて、日本帝国政府の宣言に基づき今回この軍隊の同地方撤退を決定せり。 しかして極東共和国との交渉円満に進捗するに於いては、日本軍の撤兵は速やかに実行せらるべきを予期す。

第四、露国委員は、極東共和国の領域内に、欧露労農政府に属する軍隊を侵入、駐屯、通過せしめざるを声明す。

第五、露国委員は、極東共和国政府の主義により、該共和国の政権の及ぶ範囲に於いて日本臣民の個人不可侵を保証し、その権利を尊重すべきを声明す。

第六、日露委員は、次の事を声明す。
すなわち日本軍憲及び極東共和国政府は、迅速なる極東露領の安定を期待し、およそ同地方に発生すべき武力的抗争を平和的に解決するためあらゆる手段を尽し、やむを得ざるに到り初めて断然たる処置に出ずるものとす。

第七、日露委員は、今後発生すべき諸問題の円満なる解決に資するため、相互に軍事委員を派遣する事に同意す。 ただしあらかじめ相互の協商を経るを要す。

 


 

註: 帝国政府声明  政府は三日、左のごとき声明書を公けにせり
薩哈嗹 (サハリン) 州要地占領  本年三月十二日以来五月末に亘りニコライエフスク港に於いて、帝国守備隊、領事館員及び在留臣民約七百名老若男女の別なく、同方面過激派のため虐殺せらる。 その状誠に悲惨を極む。 帝国政府は国家の威信を全うせんがため必要なる措置を執らざるべからず。 しかるに目下実際上交渉し得るべき政府なく、いかんともすることあたわざる情況に在るにより、将来正当政府樹立せられ本事件の満足なる解決を見るに至るまで、薩哈嗹州に於いて必要と認むる地点を占領すべし。
後貝加爾方面撤兵  後貝加爾方面に関しては、チェッコ・スロヴァキア軍が同方面より全然撤退せる今日の事体に顧み、帝国政府累次の声明に基づき今回、同地方より撤兵することに決定せり。
浦塩及び哈府駐兵  ただし浦塩方面は朝鮮に対する脅威排除せられざるのみならず、かえって悪化せんとする傾向あり、かつ多数の本邦人同地方に在留し、またハバロフスクは薩哈嗹州に通ずる要衝の地点なるに顧み、これら地方の安定を得るまでやむを得ず相当数の軍隊を駐むべし。
 大正九年七月三日
 国務各大臣副署

 


 

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